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米澤穂信『満願』

満願

第27回山本周五郎賞受賞。
現在、第151回直木賞候補作となっています。
新たな短編の旗手による、悪意に満ち満ちた6編からなる短編集。





ネタバレはしないように極力気を付けていますが、一応注意。


主に青春ミステリの書き手として確固たる地位を築いた米澤穂信の短編集。
全体的に人間の心の機微を基にした黒い黒い物語ばかりだから
苦手な方はどうしてもいるとは思うが、これは傑作。
古典部や小市民といった青春ミステリの人気シリーズの作風とは別の貌を持った
黒米澤の本領発揮といったところか(青春の方も充分ビターだけど)。


「夜警」
殉職した新人警官の葬儀に出席したベテラン刑事が主人公。殉職当日の状況を思い浮かべながら、新人刑事の親族と向かい合って話していくが……

本作では一番ミステリの醍醐味である推理展開がかっちりとしている。
自責の念に駆られる警官が語り手でもあるので、
それに対する読みにくさもあるだろうけど心理描写が丁寧に描かれているので不思議にスッと入ってくる。
そして結末に至るための伏線も精緻で巧妙。
最後の謎解き部分では思わず唸ってしまった。あれが伏線だったのか…と。
やはり4頁ほどの少ない解決部分でも唸らされるところがあるのは短編ならではの切れ味、という感じ。
ラストになんとも言えない哀愁が漂っていたのが印象的だった。


「死人宿」
数年前に別れた恋人とよりを戻すために人里離れた宿へと向かう男。そこで彼が見たものは、別れた頃とはうってかわった溌剌とした彼女の姿と、更衣室にぽつねんと置かれた遺書だった。

遺書の内容から考え得る推測を提示して自殺志願者を宿泊人の中から探すという一風変わったフーダニット。
主人公が自殺者を探す理由が過去の失敗によるものになっているところも変わっていて面白い。
他の物語と比べると弱い気もするが、登場人物の怖さや価値観、「常識」の概念などからは寒気すら感じる。


「柘榴」
容姿端麗な私が射止めたのは思わず引き込まれてしまうような美男子。やがて結婚し、美しさを受け継いだ姉妹も生まれ、順調な結婚生活になるかと思われたが……

『満願』で一作を選べといわれたら、これにするかもしれない。それくらい衝撃が大きかった。
母と娘、それぞれの目線で語られる一つの家族の有り様。そこに渦巻く残酷なまでの狂おしい情念。
わずか40頁ほどの分量にも関わらず、心の凄惨さ、インパクト、どこをとっても高水準。
短編の名手、連城三紀彦を彷彿とさせる淫靡な雰囲気が秀逸。


「万灯」
バングラデシュにエネルギー開発の糸口を求めて派遣されたビジネスマン。採掘場所からパイプラインを敷くためにはある村を経由地点にすることが不可欠だった。経由地にさせてくれるよう、その村へと交渉を持ちかけるが……

倒叙ミステリ。ただ、一瞬倒叙ものだとは思わせないほどにストーリーテリングが上手いし物語に引き込まれる。
本書の中では一番分量が多い短編で、それに見合うくらいのクオリティと、絶望。
主人公の仕事観に埋め尽くされた述懐が鬼気迫るものであればあるだけオチへの奈落に繋がっていく。
個人的には、<ネタバレのため反転>腕を折って退職した斎藤がオチに関わってくるかと思っていたが……<ここまで>


「関守」
都市伝説を扱うコンビニ本の記事制作のために、どんな些細なネタでもいい、と先輩に頼み込んで"死のカーブ"のある峠に取材に行くフリーライター。途中にあった食事処に立ち寄って店員のおばあさんに話を聞くが……

ホラーミステリー。最後の怒涛の展開は鳥肌が止まらなかった。また、そこへ行き着くまでの構成も素晴らしい。
この短編集の中で一番登場人物が少ない(会話の中に出てくるのは別として)ためか、全体に静謐な雰囲気が横溢しているのも恐怖を引き立たせるのに一役買っている。
簡単に言えばミッシングリンクものなのだが、それを恐怖と絡めてこんな風に見せる作者の手腕は見事。


「満願」
まだ私が司法試験のために下宿していた頃によくお世話をしてくださった家の奥さんが殺人の罪で逮捕された。その裁判の弁護を担当していたが、奥さんが何故か控訴を取り下げてくれと申し出て……

表題作。最小限の道具立てとストーリーで一気に読ませるホワイダニットの傑作である。
舞台背景は近代であるのに、「下宿」や「畳屋」などの言葉や、弁護士を夢見て勉学に励む青年と優しく世話をしてくれる下宿先の妻、学生を受け入れたものの疎ましく思ってしまう下宿先の夫などの人間関係から純文学的な色合いも垣間見えるところもポイント。読了した今、その純文学目線ですら危うく思えてきてしまうのだが…


とても面白い。間違いなく年末のミステリランキングでは上位にくるだろう。
最初と最後の短編に推理色の強い作品を配していることも効果的に思われる。
「柘榴」の感想で連城のようだ、と書いたけど推理色の強い作品には泡坂妻夫のような味わいも窺える。
非常に濃厚で、悪夢のような読書体験ができる本。オススメ!

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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